この春からお仕事を取り巻く環境が変わって、試行錯誤が続いております。
とはいっても、仕事の柱となっていることはそれほど変わっておりません。職種も現場での仕事から企画職に変わりましたが、今世紀最大の大変化というほどの変化でもございません。最も大きな変化は勤務先が変わったことです。早い話が転職、ということでございます。
前職は短い期間ではありましたが、いろいろと考えることも多く、路線変更をするかどうかを考える時期もありました。その意味では私にとっては貴重な経験ができた期間でありました。
そこでちょっと思い出していたのですが、暮らしについても考えてみると、環境が変わるということでは転居、引越しということも同様の体験があるものと思います。
私にとっての、というか、多くの方々が体験するであろう、若かりし頃の大きな転居体験は進学のための転居でしょう。私は1年間の浪人生活を経験しておりまして、その時に出身地の北海道北見市から札幌市に転居し、その後大学進学で札幌市から東京都(調布市)に転居をいたしました。それまでに家族全体では家の新築で転居することはありましたが、家族が一緒であったこともあってあまり大きな転居体験という意識はありませんでした。ところがこの時の転居は一人暮らしを始めたことに加えて、地方の街から大きな都市へ、そして首都圏への転居であったことは私にとっても大きな転居の体験でありました。その後はさらに転職に伴って故郷の北海道北見市へ戻り、さらに北海道の釧路市、河東郡音更町、宮城県仙台市、そして現在の北海道川上郡弟子屈町へと、何度も転居を繰り返してまいりました。
転居するにあたっては転居先の情報をできるだけたくさん収集する必要があります。まずは転居先の場所、駅からの距離を条件に、その上で家の間取り、そして家賃や共益費などの情報から転居先を絞り込みます。さらには家の周辺の情報です。道路、お店、コンビニ、食堂、レストラン、飲み屋、居酒屋、商店街、病院、学校、公園、川や橋などもあります。できるだけ多くの情報を得て、転居先を決定します。
さらに転居後には、転居前に知り得なかった情報を一つずつ得ていくことになります。周囲の居住者の方々の情報、地域の歴史や文化など、地域の特性を知っていくこととなります。地域の特性のみならず、ゴミの出し方、上下水道、電気、ガスなどの生活インフラを使用するにあたっての、その使い勝手や料金の納得感もあるでしょう。実際に住み始めてからその地域の生活環境を肌で感じていくのですが、そこで次第に、長くここに住むか、あるいは新たな生活環境を求めてさらに転居をするかを考える、ということを繰り返していくのではないかと思うのです。
さて、ここまで“転居をする”側から転居を見てきたわけですが、一方で“転居を受け入れる”側である地域、あるいはもっと範囲を広げて自治体レベルでの、転居を受け入れる立場から転居を考えてみましょう。
考えることは“転居をする”側と大きく異なることはありません。まずは、なぜ転居をするのか、ということが前提となります。転居理由、ということですね。進学、就職・転職、転勤、結婚、出産、同居者の別居、あるいは同居者の逝去によるものなど、あらゆる理由が考えられます。中には交通機関の路線や駅が好きだとか、人気ランキングの上位にあるからなどの理由もあるでしょう。そこには、数多くの地域がある中でなぜその街が選ばれるのか、という課題があります。さらには転居をすることによって転居者が幸福になりえるかどうか、転居を受け入れる側の立場からの言い方であれば転居者を幸福に「できる」かどうかを真剣に考える必要があると思うのですけれど、私は必ずしも居住者が増加することが生活者の幸福度を高めるとは限らないと考えます。よくあるお話で、地方で人口減少が進んでいる町に移住者が増えてくると「あの町は一生懸命やっている」と評価されるケースもあったりもしますが、確かに地方の自治体では居住人口が増えると住民税も増えて増収になりますから、それは良いことであるのは理解できます。ただし、居住者が増えることと居住者が幸せであることとは別問題です。人口が増えればそこにはまた新たな問題が発生するものです。特に地方の小さな町では住むところはあっても、働くところがない、逆に働くところがあっても住むところがない、お買い物をするにもお店が少ない、お店があったとしてもシャッター商店街で営業していない。公共交通機関の本数が少なく、交通網が脆弱である、下水道網は整備されているけれども、未だにトイレが汲み取りの家がたくさんある、などの問題が浮き彫りになってきます。居住者が増えることが先か、生活インフラを含む生活環境を整備することが先か、どちらが先かの問題もありますが、少なくとも住みたいと思う地域でなければ居住者も増加しないと考えれば、基本的な生活インフラの整備は、小さな町にとって優先的に解決しなければならない課題であると考えます。
移住者を受け入れる地域は、移住者に移住先となる数多くの地域の中から当地を選ばれるかどうか、選ばれる側にあるわけです。選ばれるためにはどうあるべきかをしっかり考えなければなりません。
今回の表題は「短期移住で地域の将来を探る。」としておりますが、短期移住については移住者の視点で見る場合と移住先の自治体、既存の住民の視点で見る場合とでその見え方が異なるわけです。短期移住での生活を通して、移住者はその地域が自分が将来住み続けることに相応しい場所であるかどうかを試すわけです。そのため、自治体はその地域の良いところ、言い換えれば自治体にとって、地域のコミュニティにとって都合が良いところだけを見せるのではなく、実際に住み始めてから「こんなはずではなかった」ということがないように、地域の悪いところ、自治体、地域コミュニティにとって都合の悪いところもしっかりと知ってもらう必要があるのです。たとえ都合が悪いところがあったとしても決してそれを隠してはなりません。堂々と見せられないのならば、見せられるように修正しなければならない。その意味では、地域コミュニティも自治体も移住者に試されているのです。そしてそれは移住者についても同様であって、移住者も試されているのだということを意識することが必要です。短期移住を始めた時点で既に旅人から住人になるのですから、地域の文化を知り、地域の特徴を把握して、この地域が自分を穏やかに受け入れてくれるかどうかを判断すると同時に、自分もまた判断される立場にもあるのだということを意識していただきたいのです。挨拶ができるかどうか、普通に会話ができるかどうか、地域に溶け込んでいけるか、困った時に助け合うことができるか、雪国ならば雪が降ったら一緒の除雪をしてくれるかどうかなど、周囲の住民はしっかり見ていますし、しっかりとコミュニケーションができればアドバイスをいただくこともあります。移住先は地方の過疎地とは限りませんが、地方の過疎地ほど地域の中での役割も多くなってきます。田舎暮らしを夢見て「田舎に行けばしがらみから解放される」と思いきや、田舎ほど地域社会との関係が強くなることもあるのだということも知っておきましょう。もちろん地域差もありますので、全ての地域が同様であるということはございませんけれども、私が最近注目をし続けているソーシャル・キャピタルが地域の中でしっかりと機能していることも大切であると考えるのであります。
繰り返しになりますが、「短期移住で地域の将来を探る」のは、視点は異なるけれども移住者にとっても地域にとっても求められることです。短期移住は互いに互いをよく知ることができる機会なのですから、旅とは一線を画してお互いにしっかり向き合うことも必要となるのです。
とは言いながらも、あまり深刻に考えることもございません。まずは旅に出て、一時的にでも移住者の気分になりながらゆったりと地域に溶け込んでみてはいかがでしょう。旅を通して自分が理想と思える移住先が見つかるかもしれません。
2022.8.8
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