思い起こせば安倍政権が観光立国を政策として打ち出し始めたのが2017年春のことだったと思います。
この文章を書いているのが2021年ですから、あれから4年半の月日が流れた、ということになります。
その間にコロナウイルスの感染拡大など不幸な現実が続いて観光立国どころの話ではなくなった、というのが正直なところ。しかし、私は改めて、たとえコロナ禍がなかったとしても観光産業をメインにした経済振興はあり得なかったことだろうと思っております。
東京オリンピックの集客効果があるだろうという反論もあるでしょうが、オリンピック効果は一時的なものであって、後に継続し続けることはなかったでしょう。また、それまではインバウンド客が増加しておりましたが、増加し続けることはなくどこかで頭打ちになっていたでしょうし、観光公害ともいわれるネガティブな影響をどこまで抑えられたことだろうかと考えています。
そもそも「観光産業」について、その定義や産業としての実体はどのようなものであるのか、私には説明ができません。「観光産業」とはどのようなものなのでしょうか。詳しくご説明いただける方がいらっしゃればどうぞ私に教えていただきたいです。
観光とは通常の生活から離れて見知らぬ土地に出向き、その土地でお薦めされている風景や施設などを見学することをいうのだろうと思うのですが、そうすると運輸業があれば良いように思います。その他には宿泊業が必要なのでしょうか。「折角来たのだからお土産を買って帰りましょう。」となると商業、小売業もありますね。「お腹が空いたからご飯を食べましょう。」で、飲食業の出番ですね。「それでは全体を一定のコースにして販売しましょう。」という方が現れて旅行業が成立しますね。旅行商品を販売するためにはお客様にはある程度の情報発信が必要となって出版業も入りますかね。情報発信は紙だけではないとなれば放送業も、インターネットの情報発信業者も加わりますね。そうなると通信回線が必要なので通信業ですか。サーバーの運営業者も必要です。その他にもいろいろな業界が参入しそうですね。
振り返って、お土産を販売するためには製造業が必要ですね。お土産にされるのはお菓子、工芸品、さらには化粧品も衣料などもあります。それぞれの製造業だけでは商品は流通しませんから、製造業と小売業の間で商品を流通させる卸売業も参入します。同様に、飲食業にも生産者と飲食店の間に卸売業が必要ですね。生産者というのは農林水産業が該当しますね。製造業は工業ですね。商品の流通には人の移動と同じく運輸業が必要ですね。運輸業がカバーするのは陸海空全てですね。バスをはじめとする自動車は陸、フェリーも貨物船も含めて海、飛行機は言わずもがなで空ですね。それぞれの輸送には燃料エネルギーが必要ですから、石油業界も必要になりますね。また、全ての産業は無料ではできませんから、金融業も関連してきますね。そのほかにもまだまだいろいろありそうですね。キリがありません。
このように「観光産業」というと関連する産業は現代社会に存在する全ての業種が関連する、ということになります。「そんなことは当たり前じゃないか。だからこれからは観光が大事なんだ」とも言われそうですが、これなら敢えて「観光産業」として別扱いで語らなくても良いのではないかという反論もできるでしょう。全ての産業が「観光産業」になるのであれば、その地域は単一産業で成り立っているということになるとも言えそうです。単一産業に依存する地域は、例えば石炭産業に依存していた地域が政策の転換によって一気に衰退していった例もあり、時代の流れが変われば地域の維持もままならなくなるという事態も懸念されるのではないでしょうか。
私は、これまでのあらゆる取り組みを見てまいりまして、観光を産業の軸にして成功した地域を探しておりましたが、あいにく「観光」で地域経済の再生が成功した地域は見つけられずにおります。「いやいや、観光で再生した町もあるぞ!」との反論もあるでしょう。しかしながら、その町は本当に「観光」で経済再生を果たしているのでしょうか。例えばその地域の見どころ、施設の整備などをしたのでしょうけれども、実際には宿泊業、運輸業、小売業などがそれぞれの事業ドメインを改めて見つめ直し、「観光」に浮かれることなく本業に徹してしっかりと”商売”をしてきた結果なのではないかと思うのです。
むしろ「観光」に注目し「観光」に舞い踊って「これからは観光だ!」と言っていた地域が、実際には「観光」に踊らされ、初めは物珍しくて注目されたとしても「一度行けばもう十分」と再訪されることなく、まさに「観光」に見放されるという運命に翻弄されていく。実際に調査、分析をしているわけではないのですが、そういう地域も少なからずあるのではないでしょうか。
さて、東北海道を、例えば「道東」というキーワードでインターネット検索を行ってみますと、その多くが『道東観光のおすすめスポット』『道東観光のおすすめグルメ』などなど、「観光」の文字が乱舞しております。
はたして道東は、東北海道は、本当に「観光」地なのでしょうか。
あらゆる産業が連携することは大切なことでしょう。しかし、それが「観光産業」で一括りにされることで軽薄なものになっているように思われてならないのです。各地の観光協会の方々には耳の痛いお話に思われるかもしれませんが、かつて全国で流行っていたご当地ゆるキャラ(R)、B級グルメ、そして観光大使もなどなど、私の勝手な見方かもしれませんが、どうしても軽さを禁じ得ないのです。
観光に踊らされることなく、自分自身の本業をしっかり見捉え、ブレずに取り組むことが大切なのだと思うのです。
私は決して「観光」を否定するのではありません。地域には観光という要素も少なからず必要であると考えております。ただし、観光施策が少しでも成功して「これからは観光だ!」としていた地域の中には観光来訪者数の伸びが鈍化して「こんなはずではなかった」と苦労しながら国や行政の補助金を頼って観光施策を打ち出し続け、しかしなかなか期待していた結果が表れず、さらに苦労している様子を見てきたつもりでおります。ここは一旦「観光」という概念に囚われずに、地域固有の資源を活かしながら多様な産業の連携を図る仕組みを構築し直すという取り組むことも考えてみてはいかがでしょう。
ちなみに、私は旅行そのものを否定する気は全くございません。それどころか私は旅が大好きであります。さらに好きが高じて総合旅行業務取扱管理者、国内旅行業務取扱管理者の両試験を受験し、両資格を保有しております。たまには思い切って長い旅に出たいものでございます。
2021.08.05
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